泌尿器科

おもな疾患

(Ⅰ) 尿路・性器腫瘍

(Ⅱ) 排尿障害

(Ⅲ) 尿路結石症

(Ⅳ) 小児泌尿器科疾患

(Ⅰ) 尿路・性器腫瘍

一般的に病理学的 (がん細胞を調べる組織検査)、あるいは画像診断によって「がん」と診断された場合、原発巣 (がんと診断された臓器) 以外のリンパ節や臓器に転移を発症していないかどうかをCT検査、骨シンチ検査やPET-CT検査などによって調べます。その結果、がんの進行の程度 (病期=ステージ) が判明します。病期 (ステージ) は、がんの大きさや周囲組織のどこまで広がっているか、リンパ節や別の臓器への転移の有無によって決まります。
がんの治療においては、病期 (ステージ) によって、どのような治療が最適であるかを検討することになります。その際、ご本人・ご家族が病状をよく理解し、担当医と治療方針について十分に話しあい、ご本人が納得したうえで治療を受けられることが最も重要です。

腎細胞がん

特徴

腎臓に発生するがんです。50歳代後半頃から増加し始め、男性に多いがんです。最近の傾向としては、自覚症状で発見されることは少なく、健診や人間ドックを受診した際の腹部超音波検査で偶然腎腫瘤を指摘され、腎細胞がんと診断されることが多くなっています。

症状

がんが小さいうちは症状があまりなく、大きくなるにつれて症状を伴うようになります。特徴的な症状としては、血尿、腹部のしこりを触る、わき腹の痛みなどがあります。進行したがんでは食欲不振、体重減少、貧血、発熱などの全身症状がみられることもあります。

検査

一般的には、腹部超音波検査、CT検査、MRI検査などの画像検査で診断します。腎細胞がんと診断がついた後、遠隔転移の有無を評価する場合にはPET-CT検査などを行います。近年では、腎腫瘤サイズが非常に小さく画像検査での診断が困難な場合には、腹部超音波またはCTガイド下生検 (画像でみながら腎腫瘤に針を刺して組織を採取する方法) を行い、病理検査で診断を確定する場合もあります。
腎細胞がんの病期 (ステージ) はⅠ期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期に分類されます。

治療

腎細胞がんの標準的な治療法は手術療法です。原則として、転移がない場合や、腎静脈への腫瘍進展 (静脈塞栓) が高度でない場合には、根治を目指して手術療法を選択します。一方で、診断時に転移を伴う進行がん、腎静脈への腫瘍進展 (静脈塞栓) が高度な場合、あるいは手術後に再発した場合などでは薬物療法を行います。いわゆる抗がん剤を用いた化学療法や放射線療法の効果は期待できません。

  • ①手術療法

    (1)根治的腎摘除術
    がんの発生した腎を全摘除します。部分切除が適応とならない場合に選択されます。腹腔鏡手術で行う場合が多いですが、腹腔鏡手術で困難が予想される場合には開腹手術で行います。
    (2)腎部分切除術
    腫瘍サイズが4~7cm以下の場合に適応となります。但し4cm以下であっても、腫瘍の位置によっては部分切除術ではなく根治的腎摘除術を選択する場合もあります。残存した腎実質の機能が温存されることが利点です。多くはロボット支援腹腔鏡手術 (RAPN) で行いますが、腫瘍の位置や腎臓を栄養する血管 (腎動脈、腎静脈) の状態によっては開腹手術で行うこともあります。
  • ②薬物療法

    (1) 抗がん剤の有効性は認められていません。
    (2) 以前はサイトカイン療法 (免疫力を高める治療、使用する薬剤; インターフェロンやインターロイキン、有効性は10~15%程度) を行っていましたが、新しい薬剤 (分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬) による治療が可能となったため、近年では施行することは少なくなっています。
    (3) 分子標的薬
    がんの増殖に関わっている物質をピンポイントで攻撃する治療で、現在腎細胞がんには数種類の治療薬が使用可能となっています。
    (4) 免疫チェックポイント阻害薬
    がん細胞は、本来人間が持っているがん免疫 (がんを排除しようとする機能) にかかわるT細胞の攻撃にブレーキをかける仕組みをもっています。免疫チェックポイント阻害薬は、T細胞の攻撃にブレーキをかけられないようにする働きをもっています。その結果、がん細胞によりブレーキをかけられて働きが弱くなったT細胞が再び活性化してがん細胞を攻撃し、がん細胞の増殖を食い止めることができると考えられています。現在、腎細胞がんでは数種類の治療薬が使用可能となっています。
    ※実際には、がんの性状などによって、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の単独治療あるいは両者の併用療法を選択して治療を行います。

腎盂尿管がん

特徴

腎盂は腎臓内部にあり、尿管は腎臓と膀胱をつなぐ管のことで、一般的に腎 (腎盂) から尿管までの通り道を「上部尿路」と呼びます。腎盂尿管の内側は尿路上皮と呼ばれる粘膜細胞からなり、この細胞から発生するがんを「尿路上皮がん」といい、腎盂尿管がんのほとんどを占めています。50歳代後半頃から増加し始める傾向があり、男性に多いがんです。発生の危険因子として喫煙、フェナセチン含有鎮痛剤の長期服用などがあります。

腎盂尿管がんでは、浸潤 (がんが外に広がりやすい) や転移を起こすことが少なくありません。
がんで尿路が閉塞すると、腎臓から尿が排泄できずに腎盂あるいは尿管が拡張した状態 (水腎症といいます) となります。この状態が長く続くと腎機能低下が起こります。通常は、腎臓は左右2カ所にありますので、片側の腎機能が低下または喪失しても、もう一方の腎臓が機能を代償してくれますので、腎不全症状 (尿量が少なくなったり、体が浮腫むなど) が起こることはまれです。

症状

最も多い症状は肉眼的血尿 (人間の目で見てわかる血尿) であり、がんが進行した場合には腰や背中、わき腹の痛みが起こることもあります。

検査

一般的に行われる検査としては、膀胱鏡検査、細胞診検査、腹部超音波検査、CT検査、排泄性尿路造影検査 (DIPまたはIVP) 、逆行性腎盂尿管造影検査 (RP) などがあります。一般的な検査で診断が難しい場合には、麻酔をかけて腎盂尿管鏡検査 (細い内視鏡カメラを挿入しての観察、がんが疑われる病変部の組織を採取することが可能な場合もあります) を行い、確定診断をつけることもあります。腎盂尿管癌がんと診断がついた後、遠隔転移の有無を評価する場合にはPET-CT検査などを行います。
腎盂尿管がんの病期 (ステージ) は0期、Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期に分類されます。

治療

腎盂尿管がんの治療は、がんの転移の有無によって大きく異なります。一般的には手術療法や薬物療法を行います。放射線療法の効果は期待できません。

  • ①手術療法

    転移がなければ手術療法が標準治療になります。

    腎尿管全摘除術+膀胱部分切除術
    尿路上皮がんは多発・再発することが多いという特徴がありますので、がんのある病変部分のみの切除は一般に行われません。がんの存在する片側の腎臓・尿管・膀胱壁の一部を含めて摘出する術式が一般的に行われます。当院では、多くの場合後腹膜鏡下腎摘除術+開腹での膀胱部分切除術で行っています。
  • ②薬物療法

    遠隔転移があり手術ができない場合、手術後に再発した場合や化学療法後に増悪した場合などに選択されます。

    (1) 全身化学療法 (抗がん剤)
    標準治療として、ゲムシタビン+シスプラチンを用いたGC療法を行います。
    (2) 免疫チェックポイント阻害薬
    全身化学療法に抵抗性を示す場合に行います。 (使用する薬剤 : ペンブロリズマブ、アベルマブ) 。
    (3) 抗体薬物複合体
    全身化学療法後に増悪した根治切除不能な尿路上皮がんに対して行います (使用する薬剤 : エンホルツマブ・ベドチン) 。
  • ③その他

    BCG (ウシに感染する結核菌の毒性を弱めた薬剤) 注入療法
    腎盂尿管にカテーテル (内腔の開いた管) を挿入し、BCGという薬剤を注入する方法ですが、治療効果についての評価は定まっていません。

膀胱がん

特徴

膀胱は、腎臓でつくられて腎盂から尿管を通って運ばれた尿を一時的にためる働きをもっています。膀胱の内側は尿路上皮細胞でおおわれており、膀胱がんのほとんどは尿路上皮細胞ががん化して発生します。60歳以降に増加し始める傾向があり、男性に多いがんです。発生の危険因子として喫煙が明らかになっています。
膀胱がんは3つのタイプに分類されます。

  • (1) 表在性膀胱がん

    膀胱表面の粘膜にとどまっており、粘膜より奥の筋層まで到達していない状態で、浸潤 (がんが周囲に広がること) や転移することはあまりありません。膀胱がんの多くがこのタイプです。

  • (2) 浸潤性膀胱がん

    膀胱壁の筋層まで広がった状態のがんです。膀胱壁から外側に浸潤しやすく、また転移することも多いがんです。

  • (3) 上皮内がん

    膀胱の表面には隆起しないで、がん細胞は粘膜に沿って存在します。膀胱に発生する上皮内がんは悪性度が高く、治療においては注意が必要です。

症状

最も多くみられる症状は、肉眼的血尿 (人間の目で見てわかる血尿) です。膀胱炎症状 (排尿時痛、頻尿、残尿感など) を自覚することもあります。がんが尿管口 (尿管が膀胱に付着する部位) をふさぐと、その上流の腎盂尿管の通過性が悪くなり (水腎症といいます) 、その結果腰や背中の痛みが現れることもあります。

検査

膀胱がんが疑われる場合には、膀胱鏡検査、細胞診検査を行います。膀胱鏡検査は、尿道から膀胱内に内視鏡カメラを挿入して観察を行い、がんの発生部位、大きさ、数や形状などの情報を得ることができ、必須の検査となります。
膀胱がんの確定診断には、組織学的検査が必要です。麻酔をかけて病変部を内視鏡カメラで確認し、生検または手術で組織を採取し、病理検査 (顕微鏡でみてがん細胞の有無、性状をしらべる) で判定します。
画像検査としては、腹部超音波検査、CT検査、MRI検査、排泄性尿路造影検査 (DIP、IVP) などがあります。
膀胱がんの診断が確定したら、転移の有無を評価するために、造影CT検査、骨シンチ検査やPET-CT検査などを行います。
膀胱がんの病期 (ステージ) は0期、Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期に分類されます。

治療

膀胱がんの治療方針の決定には、深達度 (がんが膀胱壁のどのくらい深く入り込んでいるか) を含めた病期 (ステージ) 、がんの組織学的異型度 (悪性度) が大きく関わってきます。

  • ①表在性膀胱がん (=筋層非浸潤がん) に対する治療

    (1) 手術療法
    経尿道的膀胱腫瘍切除術 (TUR-Bt) 。麻酔をかけて切除用の膀胱鏡を膀胱内に挿入し、電気メスを用いて切除します。表在性膀胱がんの場合には、TUR-Btでがん全体を切除できるため、検査 (生検) と治療を兼ねて施行することになります。1回目の手術で不完全切除が疑われる場合、組織学的に筋層浸潤の有無が評価できない場合、また高悪性度 (3段階のうちのグレード3) の場合には、1カ月程度間隔をあけて再手術を行うこともあります (セカンドTUR-Bt) 。
    (2) 膀胱内注入療法
    上皮内がんに対する治療目的で行う場合
    尿道から膀胱へカテーテル (細い管) を挿入し、BCG (ウシに感染する結核菌の毒性を弱めた薬剤) という薬剤を膀胱内に注入し、約2時間程度膀胱内にとどめておく治療法です。外来通院で1週間毎に6~8回行うのが標準的な治療方法です。BCG治療の副作用として、膀胱炎症状、発熱、関節痛などがあります。
    表在性膀胱がんに対する再発予防目的で行う場合
    TUR-Bt手術直後に抗がん剤を1回注入し約60分間膀胱内にとどめておく治療法です。
  • ②浸潤性膀胱がん (=筋層浸潤がん) に対する治療

    転移のない筋層浸潤がん、BCGが有効でない筋層非浸潤がん、上皮内がんなど膀胱を温存しての治療では不十分と判断された場合には、膀胱を摘除する手術が必要となります。
    一般的には、膀胱全摘除術 (骨盤リンパ節郭清術+必要な場合には尿道摘除術を含む) を行います。膀胱は摘出しますので、尿を排泄する出口を新につくる尿路変向術も同時に行う必要があります。
    尿路変向術の方法として、失禁型と非失禁型があります。
    失禁型では、尿を貯める袋 (パウチといいます) が必要となり、ご自身でパウチの装着・定期的な交換を施行してもらうことになります。回腸導管造設術や尿管皮膚瘻造設術が失禁型になります。一般的には回腸導管造設術が多く選択されます。
    非失禁型では、尿を貯める袋 (パウチといいます) は不要です。自排尿型代用膀胱造設術では手術前と同じように外尿道口からの排尿は可能になりますが、回腸で作成した代用膀胱は本来の膀胱と同じ働きはありませんので、尿意も感じにくく、腹圧をかけて定期的に排尿を行う必要があります。排尿の自己管理がきちんとできないと、巨大膀胱 (代用膀胱の容量が非常に大きくなる) となり、自力排尿ができなくなり、最終的に導尿 (1日に数回カテーテルを挿入して尿を排出する方法) を行うことが必要になる場合もあります。
    どの方法で尿路変向を行うかは、患者様の体格や、がんの状態、疾患に対する理解度などを考慮して決定します。

  • ③転移がある場合や再発した場合の治療

    (1) 全身化学療法
    抗がん剤を用いて治療を行います。標準治療としてGC療法があります (使用する薬剤 : ゲムシタビン+シスプラチン) 。
    (2) 免疫チェックポイント阻害薬
    全身化学療法に抵抗性を示す場合に行います。 (使用する薬剤 : ペンブロリズマブ、アベルマブ) 。
    (3) 抗体薬物複合体
    全身化学療法後に増悪した根治切除不能な尿路上皮がんに対して行います (使用する薬剤 : エンホルツマブ・ベドチン) 。

前立腺がん

特徴

前立腺は男性にある臓器で、膀胱の下方で尿道のまわりを囲んで位置しており、精液の一部に含まれる前立腺液をつくっています。前立腺がんは60歳頃から増加し始めます。高齢化社会や食生活の欧米化などを背景に、罹患率も年々増加傾向を示しています。国立がん研究センターの調査では、前立腺がんの予後に関して、5年および10年生存率は高いがんであると報告されています。

前立腺がんによる自覚症状で診断される場合もありますが、最近では無症状でも健診や人間ドック、泌尿器科以外の診療科で診察を受けた際の採血でPSA高値を指摘され発見される場合も多くなっています。

前立腺がん発生のリスクを高める因子として、年齢、家族歴 (遺伝的要因) が明らかにされています。

症状

前立腺がんが発症しても初期の段階では多くの場合自覚症状がありません。しかい、発生部位やがんが進行して尿道を圧迫し始めると、尿が出にくい、頻尿などの排尿症状が出ることもあります。前立腺局所でがんが進行すると、排尿症状にくわえて、血尿が出ることもあります。
前立腺がんが転移すると、転移部位による症状も出現してきます。骨転移では痛みやしびれ、リンパ節転移ではリンパの流れがわるくなり足や陰のうなどにむくみが生じることがあります。肺転移では息苦しさや咳、肝転移では黄疸 (皮膚や白眼が黄色くなる) などの症状が現れることがあります。

検査

  • (1) スクリーニング検査

    直腸診
    肛門から直腸内に指をいれ、直腸壁を通して前立腺を触り、前立腺の大きさや硬さ、しこりの有無などを確認します。
    PSA検査
    血液検査で調べます。PSA (前立腺特異抗原) は前立腺から分泌される蛋白分解酵素で、前立腺がん、前立腺肥大症や前立腺炎など何らかの前立腺疾患が発症すると血液中に漏れ出してきます。PSA値が高い場合、すべて前立腺がんと診断されるわけではありません。また、まれにPSA値が正常範囲内でも前立腺がんと診断される場合がありますので、診断を確定するためには他の検査も組み合わせて総合的に判断する必要があります。
    ※PSAの基準値は、一般的に4.0ng/ml以下が正常とされますが、PSA値は年齢とともに上昇することも知られているため、年齢別の基準値 (年齢階層別カットオフ値) で判断することも推奨されています。

    年齢 基準値 (年齢階層別カットオフ値)
    50~64歳 0.0~3.0 ng/ml
    65~69歳 0.0~3.5 ng/ml
    70歳以上 0.0~4.0 ng/ml


    ※PSA検査は、前立腺がん治療後の病状を評価するための腫瘍マーカーとしても使用されます。

    経直腸的前立腺超音波検査 (TRUS)
    肛門から超音波を発する棒状の器具 (プローベ) を挿入して、前立腺の大きさや内部の性状を確認します。
    前立腺MRI検査
    前立腺がんの有無、がんがどの部位に存在しているか、前立腺の外へ浸潤がないかなどの情報を確認する目的で行います。
  • (2) 確定診断

    前立腺針生検
    スクリーニング検査で前立腺がんが疑われた場合には、一般的にTRUSで前立腺を描出しながら、直腸側あるいは会陰部皮膚から前立腺に細い針を刺して前立腺組織を採取します (最低でも6カ所以上、通常は12カ所) 。採取した前立腺組織は顕微鏡検査で詳しくしらべます。
  • (3) 病期診断・リスク分類

    ①病期診断
    前立腺針生検で前立腺がんと確定診断がついたら、リンパ節転移や遠隔転移の有無を評価するため、CT検査、PET-CT検査を行います。骨転移が疑われる場合には骨シンチグラフィー検査を行うこともあります。
    前立腺がんの病期 (ステージ) はI期、II期、III期、IV期に分類されます。
    ②リスク分類
    転移のない前立腺がんは、3つの因子 (がんの広がりを表すT-病期、悪性度を表すグリーソンスコア、PSA値) を用いて低リスク群、中間リスク群、高リスク群に分類されます。主にNCCN分類が用いられ、治療方針の決定の際に参考にします。

    NCCNのリスク分類
    PSA (ng/ml) グリーソンスコア T-病期
    低リスク群 <10 ≦6 T1~T2a
    中間リスク群 10~20 7 T2b~T2c
    高リスク群 20< 8~10 T3a

治療

前立腺がんの治療選択に関しては、PSA値、腫瘍の悪性度 (グリーソンスコア) 、病期診断、リスク分類にくわえ、患者様の年齢、基礎疾患の有無、期待余命 (これから先、どのくらい生きることができるかという見通し) 、患者様自身の治療に対する考え方などを考慮し検討していきます。患者様・ご家族と担当医との間でよく話し合い、治療方針を決定することが大切です。

  • ①PSA監視療法

    比較的おとなしいがんで、すぐに治療を開始しなくても余命に影響がないと判断される場合に経過観察を行う方法で、治療の副作用や合併症のリスクを回避し、生活の質を保ちながら、過剰な治療を防ぐことができます。3~6カ月毎のPSA検査 (±直腸診)、1~3年毎の前立腺針生検を行います。病状が増悪する兆候を認めた時点で治療介入を検討します。
    (対象病期) T1~T2。
    (適用条件) 1) PSA値が10ng/ml以下。2) グリーソンスコアが6以下。3) 前立腺針生検でがん細胞が見つかった本数 (陽性コア) が2本以下。4)陽性コアの細胞の中で、がん細胞が占める割合が50%以下。

  • ②手術療法 (根治的前立腺全摘除術)

    前立腺と隣り合う精嚢腺を含めてすべて摘除し、膀胱と尿道を縫合してつなぎ合わせる手術で、がんの根治が期待できます。高リスク群の場合には所属リンパ節への転移を確認するため、骨盤内リンパ節郭清術も行うことがあります。
    手術方法として、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援腹腔鏡手術があります。いずれの方法でも癌制御に関する治療成績はほぼ同等の結果となります。当院では2018年よりロボット支援腹腔鏡手術で施行しています。
    (対象病期) T1~T2。
    (主な術後合併症) 尿失禁、性機能障害 (勃起不全) などがあります。ロボット支援腹腔鏡手術では尿失禁の頻度は少なくなっています。

  • ③放射線療法

    前立腺に放射線を照射してがん細胞を死滅させる治療法で、手術と同様に根治が期待できます。また、骨転移に由来するがん性疼痛などに対して痛みをやわらげるために治療することもあります (緩和照射といいます)。
    方法としては、外照射、密封小線源療法、粒子線療法などがあります。当院では外照射治療を施行しています。密封小線源療法や粒子線療法を希望される場合には、治療可能な医療機関に紹介して治療を受けてもらいます。

    1) 外照射
    体外から前立腺に対して放射線を照射する方法。
    (対象病期) T1~T3、リンパ節転移や遠隔転移がない。
    2) 密封小線源療法
    放射線を出すヨウ素125が入ったカプセルを前立腺内に埋め込み、体の内側から放射線を照射する方法で、前立腺以外の正常組織へのダメージが少ない利点があります。
    (対象病期) T1~T2、リンパ節転移や遠隔転移がない。
    3) 粒子線療法
    重粒子線や陽子線といった放射線を前立腺がんに集中してピンポイントで照射できるように調整ができるため、体の表面や前立腺以外の正常組織へのダメージが少ない利点があります。
    (対象病期) T1~T3、リンパ節転移や遠隔転移がない。
  • ④ホルモン療法 (内分泌療法)

    前立腺がんは男性ホルモンによって増殖するため、男性ホルモンを抑えることで、がん細胞の分化・増殖を抑制する治療法です。基本的に治療効果がある間は、治療を継続する必要があります。
    (対象病期) T1~T4、リンパ節転移や遠隔転移がある場合、限局がんであっても年齢や基礎疾患などの理由で手術療法が受けられない場合。
    (治療に使用する薬剤) 内服薬として、抗アンドロゲン薬 (ビカルタミド錠など) 、エストロゲン薬 (エチニルエストラジオール錠) があります。注射薬として、LH-RHアゴニスト製剤 (ゴセレリン酢酸塩、リュープロレリン酢酸塩) 、LH-RHアンタゴニスト製剤 (デガレリクス酢酸塩) があります。
    (副作用) 体内のホルモン環境が変化することによる、ホットフラッシュ (のぼせ、ほてり、発汗)、性機能障害など。

    ※アンドロゲン遮断療法
    男性ホルモンの95%は精巣から分泌され、5%は副腎 (左右の腎臓の上方にある臓器) から分泌されます。アンドロゲン遮断療法は、精巣から分泌される男性ホルモンをLH-RHアゴニスト製剤またはLH-RHアンタゴニスト製剤で抑え、副腎から分泌される男性ホルモンを抗アンドロゲン薬で抑えることにより最大の効果を引き出す治療法です。
  • ⑤化学療法

    ホルモン療法で治療効果がみられなくなった場合には、抗がん剤を用いた化学療法が行われます。
    (使用する薬剤)ドセタキセル、カバジタキセル。
    (抗がん剤の副作用) 吐き気、疲労感、脱毛、口内炎、骨髄抑制 (白血球減少、貧血)、発熱性好中球減少症など。

  • ⑥HIFU (高密度焦点式超音波療法)

    肛門から超音波を発生するプローブを挿入し、超音波を1点に集中させてがん細胞を熱で凝固壊死させる局所療法です。
    (対象病期) T1~T2、リンパ節転移や遠隔転移がない。
    沖縄県内には治療施設がありませんので、治療を希望される場合には、治療可能な県外の医療機関に紹介して治療を受けてもらいます。

手術療法・放射線療法後にがんが再発したときの治療法

根治を目指して行われた手術療法や放射線療法後に、腫瘍マーカーであるPSA値の上昇を認めた場合を「PSA再発」といいます。PSA再発があっても、自覚症状はなく、画像検査では異常を認めないこともあります。

(再発後の治療)1) 手術療法後の再発の場合、画像検査でリンパ節転移や遠隔転移がなければ、局所再発の可能性がありますので放射線療法が選択されます。画像検査でリンパ節転移や遠隔転移を認めた場合には、ホルモン療法を選択します。2) 放射線療法後の再発の場合には、ホルモン療法を行うことが一般的です。

ホルモン療法後に再燃したときの治療法

ホルモン療法を継続しているうちに、男性ホルモンの影響を受けないホルモン非依存性のがん増殖していき、次第に薬の効果がなくなっていくことがあり、これを「再燃」といいます。前立腺がんの細胞には、ホルモン療法が効きやすいがん細胞と効きにくいがん細胞が混じっています。ホルモン療法を継続していくと、ホルモン療法が効きやすいがん細胞は死滅していきますが、ホルモン療法が効きにくいがん細胞が生き残り、残ったがん細胞が増殖していくことになります。こうした状態の前立腺がんを「去勢抵抗性前立腺がん (CRPC;Castration-Resistant Prostate Cancer)」といいます。
再燃後の治療としては、新規ホルモン薬 (内服薬: アビラテロン、エンザルタミドなど)、化学療法 (注射薬;ドセタキセル、カバジタキセルなど)、分子標的薬 (内服薬;PARP阻害薬オリパラブ→遠隔転移があり、事前の検査でBRCA遺伝子変異陽性と診断された場合に治療可能)、アルファ線放出放射線医薬品 (注射薬;塩化ラジウムRa223→骨転移を有するCRPCと診断された場合に治療可能) などがあります。
再燃後の治療でも制癌できなくなった場合には、がんの進行や転移による種々の症状を和らげる治療 (緩和療法といいます) を行います。

精巣腫瘍

特徴

精巣は、男性の左右陰のう内にある臓器で、「睾丸 (こうがん) 」とも呼ばれます。精巣のライディヒ細胞で男性ホルモンを産生し、精母細胞で精子をつくる働きがあります。精巣腫瘍の約95%は精母細胞から発生します。罹患率は10万人に1人程度とされ、比較的まれな腫瘍です。好発年齢は20歳代から30歳代で、青壮年期に発症のピークがあります。
精巣腫瘍は、病理診断 (顕微鏡で細胞の状態や組織を調べる検査) と腫瘍マーカーの値によって、大きく「セミノーマ (精上皮腫)」と「非セミノーマ (非精上皮腫)」の2つに分類されます。

症状

主な症状は、精巣が腫れたり、精巣を硬く触れたりしますが、多くの場合痛みは伴いません。
精巣腫瘍は、発症してから短期間で転移を起こすためことも多く、転移巣に由来する症状で医療機関を受診し、診断されることもあります。その場合は、転移した臓器により症状が異なり、肺転移であれば息切れ・せき・血痰、腹部リンパ節転移であれば腹痛・腰痛・腹部のしこりなどの症状を自覚することがあります。

検査

  • 触診

    陰のう内を触り、精巣の大きさや硬さを確認します。

  • 腫瘍マーカー

    腫瘍細胞が作り出す物質で、腫瘍の種類や性質を知るための指標となるもので、血液検査で調べます。代表的なものに、AFP、hCGおよびhCG-β、LDHがあります。治療効果の判定や治療後の経過観察でも用いられます。

  • 画像検査

    (1) 局所の評価
    腫瘍の性状や広がりを調べるための検査方法としては、超音波検査、CT検査、MRI検査などがあります。
    (2) 転移巣の評価
    リンパ節転移や遠隔転移の有無を調べるための検査方法としては、CT検査、PET-CT検査、骨シンチグラフィー検査などがあります。
    本邦では、精巣腫瘍の病期 (ステージ) はI期、II期 (IIA・IIB) 、III期 (IIIO・IIIA・IIIB・IIIC) に分類されます。
    治療方針の決定に有用であることより、画像診断などでわかる腫瘍の広がりにくわえて、腫瘍マーカーの値も含めたIGCC (International germ cell consensus) 分類も用いられます。
治療

精巣腫瘍は進行が速く、転移しやすい特徴があります。そのため、精巣腫瘍が疑われる場合には、まず精巣を摘出する手術を行います。摘出した精巣を顕微鏡で調べ (病理検査) 、組織型を判定します。それと同時に転移の有無を評価するための画像検査を行います。腫瘍の組織型 (セミノーマ、非セミノーマ) と転移の有無によって病期診断を確定し、治療方針を決めます。

  • ①手術療法

    (1) 高位精巣摘除術
    腫瘍の組織型を診断するため、基本的にすべての患者様で実施される手術です。
    (2) 後腹膜リンパ節郭清術

    後腹膜リンパ節 (腹部大血管周囲にあるリンパ節) とその周りの組織を摘出する手術で、通常は後腹膜リンパ節転移がある場合に適応となります。先行してまず化学療法を行い、腫瘍細胞を死滅させてからこの手術を実施することもあります。

    ※後腹膜リンパ節郭清術後の射精障害について
    後腹膜リンパ節郭清術後に逆行性射精 (射精の際に精液が外に出ずに、膀胱側に排出される現象) という障害を起こすことがあります。手術の際の郭清範囲によって状況は異なり、必ず起こるとは限らず、また障害の程度にも個人差があります。逆行性射精があると男性不妊症の原因となる可能性があります。本手術を受けるにあたっては、手術前に担当医から十分に説明してもらい、またパートナーともよく話し合っていただく必要があります。

    (3) 転移巣切除術
    非セミノーマの場合、化学療法後に画像検査で転移が残存していると、転移巣から再発する可能性が高いため、可能なかぎり転移巣を切除することが推奨されます。
  • ②化学療法

    精巣腫瘍 (特にセミノーマ) は化学療法の効果が非常に高く、転移のある場合でも化学療法を中心とした集学的治療 (外科的手術療法、化学療法、放射線療法などのうち2つ以上の治療方法を組み合わせてより高い治療効果を得るための治療のこと) により根治が期待できます。 化学療法では作用の異なる複数の抗がん剤を組み合わせて治療を行います。抗がん剤を用いた化学療法では、種々の副作用が出現する場合があります。多くの副作用は、治療を中止することによって改善しますので、つよい副作用が出現した場合には抗がん剤の変更や休薬、中断などを検討します。
    (対象病期) 転移のないI期でも再発の可能性が高い場合、転移のあるII期以上。

    ※化学療法を行う場合には、治療後に「無精子症」になる可能性があるため、挙児希望の患者様には、治療開始前に妊孕性温存療法 (精子または精巣組織の凍結保存など) について担当医と相談することが推奨されています。

  • ③放射線療法

    セミノーマでは放射線感受性が高いため、高い治療効果があります。
    非セミノーマでは放射線治療の効果があまり期待できないため、初期治療として選択されることはありません。
    (対象病期) I期のセミノーマの再発予防目的、II期のセミーマの比較的小さなリンパ節転移。

(II) 排尿障害

排尿障害は、年齢とともに増えてくる疾患ですが、その症状は生活の質 (QOL: quality of life) を低下させることもあり、泌尿器科診療では重要な疾患といえます。
高齢化社会を迎える本邦において、今後確実に増加する排尿障害で悩む患者様への適切な対応は、今後の医療において重要な課題となっています。ここでは、頻度の多い疾患として、「前立腺肥大症」と「過活動膀胱」について解説します。

前立腺肥大症

特徴

前立腺は膀胱の下方に位置し、男性にある臓器です。年齢とともに前立腺は大きくなり (肥大といいます)、次第に尿道を圧迫するようになります。そのため、排尿障害を自覚するようになってきます。加齢に伴う要因が大きいため、予防方法は明らかになっていません。

症状

  • 排出障害 (尿を出すことに関連した症状)

    排尿困難、尿の勢いがよわい、尿が出始めるまで時間がかかる、尿が途中で途切れる、排尿後もすっきりせず残った感じがする、尿閉 (飲酒後や感冒薬内服後に、尿意はあっても急に排尿できなくなる状態) など。

  • 蓄尿障害 (尿を貯めることに関連した症状)

    頻尿 (日中、夜間) 、切迫尿意、切迫性尿失禁 (尿意を催して排尿するまでに我慢ができず漏れてしまう) など。

    ※症状を把握するため、IPSS (国際前立腺症状スコア)・QOLスコアを記入してもらうことがあります。

  • IPSS (国際前立腺症状スコア) とQOLスコア

    IPSS (国際前立腺症状スコア) とQOLスコア
検査

  • 直腸診

    肛門から指を挿入して直腸側から前立腺を触知し、大きさや硬さなどを確認します。前立腺肥大の程度、炎症の有無、前立腺がんの合併の有無などを評価します。

  • 画像検査

    超音波検査 (前立腺体積の測定、腎臓や尿管への影響の有無を調べる)、前立腺MRI検査 (前立腺形態や前立腺がん合併の有無を調べる)、尿道造影検査 (下部尿路の閉塞状況を調べる) など。

  • 血液検査

    PSA検査 (前立腺がんの腫瘍マーカー: 前立腺がんの合併の有無を評価する) 、腎機能検査 (排尿障害が高度で残尿が多く、慢性尿閉の状態では腎機能低下を起こすことがある)。

  • 尿流量測定・残尿測定

    実際に測定機器に排尿してもらい、尿の勢いや排尿にかかる時間、排尿後の残尿を評価します。

治療

治療は主に薬物療法や手術療法が行われます。

  • ①薬物療法

    使用する内服薬剤として、α1遮断薬、5α還元酵素阻害薬、PDE5阻害薬、抗コリン薬・β3作動薬 (蓄尿障害に対してα1遮断薬と併用して治療する) 、その他に生薬系薬剤や漢方薬などがあります。症状や基礎疾患を考慮して適切な薬剤を選択して治療を行います。

  • ②手術療法

    一般的に、 (1) 薬物療法の効果が不十分な場合、 (2) 症状の程度が中等度から重度の場合、 (3) 尿閉の既往歴がある場合、 (4) 尿路感染症・膀胱結石などの合併疾患がある (または危惧される) 場合、 (5) 中葉肥大 (前立腺正中部が肥大して膀胱内につよく突出し、膀胱の出口をふさいでしまう状態で、排尿困難がつよく起こります) に手術適応となります。

    (1) 内視鏡手術
    一般的に入院期間は4~7日間。尿道カテーテル留置期間は1~4日間。麻酔は脊椎麻酔あるいは全身麻酔で行います。
    ・経尿道的前立腺切除術 (TUR-P)
    電気メスを用いた方法。大きな前立腺肥大症では出血のリスクがあります。
    ・経尿道的前立腺核出術 (HoLEP)
    ホルミウムレーザーを用いた方法。大きな前立腺肥大症でも施行可能。抗血栓療法中でも施行可能。
    ・経尿道的光選択的レーザー前立腺蒸散術 (PVP)
    グリーンライトレーザーを用いた方法。中程度の大きさの前立腺肥大症まで施行可能 (大きな前立腺肥大症では肥大腺腫が残存する可能性があります) 。抗血栓療法中でも施行可能。出血量が非常に少ない。
    (2) 開腹手術
    一般的に入院期間は10~14日間。尿道カテーテル留置期間は7日間。麻酔は全身麻酔で行います。
    ・被膜下前立腺的手術術 (SPP)
    内視鏡治療では対応が困難となる非常に大きな前立腺肥大症の場合や膀胱結石を合併しているときなどに行う方法。輸血を必要とする場合もあります。手術後の再発の可能性は低い。
    • ※当院では、病状を詳しく評価した上で、TUR-P、HoLEP、PVP、SPPのいずれかの方法で手術を施行しています。
    <手術に使用する機器>
    当院では、前立腺肥大症に対する手術機器として電気メス (バイポーラーシステム)、レーザー (ホルミウムレーザー、グリーンライトレーザー) を用いて手術を行っています。

過活動膀胱

特徴

過活動膀胱とは、「尿意切迫感にくわえて頻尿、夜間頻尿、切迫性尿失禁の少なくともいずれか一つを伴う症状症候群」と定義されています。男女問わず加齢とともに有病率は高くなります。

症状

最も重要な自覚症状としては、「尿意切迫感」です。
尿意切迫感は、突然起こり、トイレに行くことを後回しにできないことを特徴とする異常な感覚のことをいいます。
過活動膀胱の症状を評価するものとして、過活動膀胱症状スコア (OABSS) があります。

  • 過活動膀胱症状スコア (OABSS)

    質問 症状 点数 頻度
    1 朝起きた時から寝るまでに、何回くらい尿をしましたか 0 7回以下
    1 8〜14回
    2 15回以上
    2 夜寝てから朝起きるまでに、何回くらい尿をするために起きましたか 0 0回
    1 1回
    2 2回
    3 3回以上
    3 急に尿がしたくなり、我慢が難しいことがありましたか 0 なし
    1 週に1回より少ない
    2 週に1回以上
    3 1日1回くらい
    4 1日2〜4回
    5 1日5回以上
    4 急に尿がしたくなり、我慢できずに尿をもらすことがありましたか 0 なし
    1 週に1回より少ない
    2 週に1回以上
    3 1日1回くらい
    4 1日2〜4回
    5 1日5回以上

    [過活動膀胱の診断基準] 尿意切迫感スコア (質問3) が2点以上かつOABSS合計スコアが3点以上
    [過活動膀胱の重症度判定] OABSS合計スコア
    軽 症 : 5点以下
    中等症 : 6〜11点
    重 症 : 12点以上
    (日本排尿機能学会. 過活動膀胱診療ガイドライン. 2005より引用)

  • 排尿日誌

    排尿日誌 (排尿時間や排尿量、水分の摂取状況などを3日間程度記録する日誌) も病状を把握するために有用です。

検査

  • 尿検査

    血尿や尿路感染症の合併の有無をしらべます。

  • 超音波検査

    尿路 (腎~尿管~膀胱) に異常所見がないかを調べます。

  • 残尿測定

    排尿後の残尿の有無、残尿がある場合は残尿量を評価します。

治療

  • ①行動療法

    生活習慣の改善、膀胱訓練、理学療法 (骨盤底筋訓練、バイオフィードバック訓練) などがあります。

  • ②薬物療法

    使用する内服薬剤として、抗コリン薬 (膀胱の異常な収縮を抑制する働き) やβ3作動薬 (膀胱容量を増大させる働き) があります。

  • ③手術療法

    (1) 仙骨神経刺激療法、 (2) ボツリヌス毒素膀胱壁注入療法、 (3) 磁気刺激療法などがあります。当院では手術療法は施行していませんので、治療可能な医療機関に紹介しています。

(Ⅲ) 尿路結石症

尿路結石症は、尿路 (腎~尿管~膀胱~尿道) に結石が形成され、それによって症状が引き起こされる疾患のことをいいます。症状を自覚したときの結石の位置によって、上部尿路結石 (腎結石、尿管結石) と下部尿路結石 (膀胱結石、尿道結石) に分類されます。上部尿路結石の罹患率は年々増加しています (1965年から2005年の40年間に約3倍増加) 。上部・下部尿路結石ともに男性に多く発症します。上部尿路結石の再発率は約40~50%と再発の多い疾患といえます。

結石の成分としては、カルシウム含有結石が最も多く、その他に尿酸結石、リン酸マグネシウム-アンモニウム結石 (尿路感染症と関連がある) 、シスチン結石などがあります。

発生原因としては、食事や水分摂取習慣などの環境因子が最も多いことがあげられます。

再発予防として水分摂取を励行し、蓚酸を多く含む食品 (ほうれん草、コーヒーなど) の過剰摂取を控えることが大切です。

頻度の多い、「腎結石」と「尿管結石」について解説します。「腎結石」と「尿管結石」とでは治療方針が異なります。

腎結石

症状

自覚症状としては、痛み (腰背部の痛み) や血尿があります。
腎結石では、無症状のこともあります。健診での超音波検査や他の疾患の精査中に偶然指摘されて見つかることもあります。

検査

  • ①尿検査

    尿潜血や尿路感染合併の有無を調べます。

  • ②画像検査

    結石の大きさと位置、腎臓の拡張 (水腎症といいます) の有無を調べるため、超音波検査、腹部レントゲン検査、CT検査などを行います。

  • ③血液検査

    腎機能障害の有無、炎症所見の有無や代謝疾患のスクリーニングを評価する目的で調べます。

治療

  • ①疼痛緩和のための治療

    疼痛がつよい場合には、内服薬や注射で症状を和らげます。

  • ②溶解療法 (尿アルカリ化療法)

    尿酸を含んだ尿酸結石の場合には、尿をアルカリ化することで結石を溶解できる可能性があるため、内服薬を服用して治療することがあります。

  • ③手術療法

    結石のサイズによって治療方針が異なります。

    (1) 結石サイズが10mm未満の場合
    (第1選択) 体外衝撃波結石破砕術 (ESWL)
    (第2選択) 経尿道的尿路結石除去術 (f-TUL)
    (2) 結石サイズが10mm~20mm未満の場合
    (第1選択) ESWL、経皮的尿路結石除去術 (PNL)
    (第2選択) f-TUL
    (3) 結石サイズが20mm以上
    (第1選択) PNL
    (第2選択) f-TUL→残石に対してESWLやPNLとの併用、開腹手術 (腎盂切石術) など
  • ④手術適応とならない状態

    1. 結石による著明な水腎症 (尿路通過障害により腎盂が高度に拡張した状態) があり、腎機能の回復が期待できない場合には、積極的な砕石治療の適応はありません。
    2. 膿腎症 (腎臓に炎症が起こり腎盂内に膿がたまった状態) を合併し、感染のコントロールが困難な場合には、砕石治療は行わず、感染した腎臓ごと摘出 (腎摘除術) する場合があります。

尿管結石

症状

主な自覚症状には、痛み (側腹部痛、腰背部痛)、血尿などがあります。吐き気・嘔吐、冷や汗などの症状を伴うこともあります。痛みは突然起こる疝痛発作 (せんつうほっさ) が特徴的です。尿管結石が尿管下端 (膀胱付近) まで下降すると膀胱刺激症状 (頻尿、尿意切迫感、残尿感など) を伴うことがあります。

検査

腎結石と同様な検査を行います。

治療

長径 (結石の最も大きいサイズ) が9mm未満の場合には、自然排石 (排尿時に体外へ出る) が期待できますので、痛みのコントロールおよび排石促進のための薬物療法を行いながら、保存的に経過をみます。
長径が10mm以上になると自然排石の可能性は低くなりますので、砕石治療の適応となります。

尿管に結石が嵌頓 (はまり込んだ状態) し、細菌感染による炎症 (閉塞性腎盂腎炎といいます) を伴う場合には、まず炎症を改善するため、内視鏡カメラを用いて腎~尿管~膀胱内にバイパスの管 (D-Jステントといいます) を留置することがあります。その場合には、炎症がなおった後に、結石に対する砕石治療を行います。

  • ①疼痛緩和のための治療、溶解療法については腎結石と同様の治療方針となります。
  • ②手術療法

    結石の位置・サイズによって治療方針が異なります。

    (1) 上部尿管結石・結石サイズが10mm未満の場合
    →体外衝撃波結石破砕術 (ESWL)
    (2) 上部尿管結石・結石サイズが10mm以上、中部尿管結石、下部尿管結石・結石サイズが10mm未満の場合
    →経尿道的尿路結石除去術 (TUL) 、または体外衝撃波結石破砕術 (ESWL)
    (3) 下部尿管結石・結石サイズが10mm以上の場合
    →経尿道的尿路結石除去術 (TUL)
再発予防

尿路結石に罹患すると、約40~50%の頻度で再発することがあります。そのため、再発予防が重要となります。以下の点を実践することをおすすめします。

  1. 1日1~2Lの水分摂取につとめる。
  2. 清涼飲料水や甘味飲料水の過剰摂取は控える。ともに尿中カルシウム排泄量を増加させ結石形成の一因になります。
  3. アルコールの過剰摂取は控える。アルコール摂取後の脱水状態は結石形成のリスクを増加させます。
  4. バランスのとれた食事摂取を心がける。
  5. シュウ酸を多く含む食品 (ほうれん草、紅茶、コーヒー、チョコレートなど) の過剰摂取は控える。
  6. 適度な運動を行う。尿路結石症の患者様では、糖尿病、高血圧症、脂質異常症などを合併していることが多く、生活習慣病との関連も明らかになっています。そのため、生活習慣病を予防するためにも、適度な運動を行い、健康的な生活習慣を身につけることが重要です。

(Ⅳ) 小児泌尿器科疾患

停留精巣 (ていりゅうせいそう)

精巣 (睾丸ともいいます) が陰のうまで降りずに、鼠径部 (足の付け根付近) や腹腔内 (お腹のなか) にとどまっている状態をいいます。精巣は元々胎児期にはお腹の中 (腎臓の近く) で発生し、ここから鼠径管 (足の付け根付近にある) トンネルを通り、出生時には陰のうまで降りてきます。精巣の下降が不完全な場合に発生するのが、停留精巣という病気です。出生時に精巣が陰のう内に下降していなくても、成長とともに次第に精巣が陰のう内まで下降することもあるため、1歳~1歳半頃までは経過をみることがあります。

特徴

  • ①妊孕性 (にんようせい: 子供をつくる能力) について

    停留精巣を放置した場合、将来的に精巣で精子をつくる機能 (造精機能) が障害をうける可能性があります。そのため、1歳半頃までに精巣が陰のう内まで下降していない場合には、手術を検討します。

  • ②停留精巣と発癌について

    正常の精巣に比べて、停留精巣は悪性化 (がんになる) しやすいとされていますが、実際に悪性化することは少ないようです (ただし、本邦での具体的な発症頻度は明確なデータがないため示されていません) 。停留精巣の手術後は、精巣は陰のう内に位置していますので、仮に精巣にがんが発生して急に大きくなることがあっても、自分で気づくことができ早期発見が可能です。

  • ③整容性について

    治療することにより生殖器の外観をよくすることができます。このことは、男児の発育過程においては非常に重要なことです。

症状

陰のう内に精巣を認めない、触れない、あるいは陰のう形状に左右差があるなどの症状で発見されます。乳幼児健診で指摘される子供さんもいます。

検査

  • 理学所見

    陰のう内~鼠径部~腹部を触り、精巣の有無、精巣の存在する部位や精巣の大きさを診察で確認します。停留精巣の約80%はこの診察で鼠径部付近に触ることができます。しかし、20%はどこにあるのか、あるいは精巣自体が存在しているのかどうか、はっきりしないことがあります (これを非触知精巣といいます) 。

  • 超音波検査

    侵襲の低い検査で、鼠径部付近にある精巣は、その位置や大きさを調べることができます。非触知精巣の診断に有用なことがあります。

  • MRI検査

    超音波検査でも精巣の局在が診断できない場合に、腹腔内 (お腹のなか) も含めて調べることができ、有用な場合があります。

  • 腹腔鏡検査

    非触知精巣で超音波検査やMRI検査でも精巣を見つけることができない場合に、全身麻酔をかけてお腹に小さなあなをあけ、内視鏡カメラを挿入して腹腔内 (お腹の中) を観察して最終診断を行うことがあります。

治療

停留精巣の中でも、鼠径部付近にあるタイプでは手術療法 (停留精巣固定術) が標準的治療となります。
(麻酔方法) 全身麻酔で行います。
(手術の内容) 下腹部の鼠径部に2cm前後の皮膚切開を行い、精巣を見つけます。精巣に付着している栄養血管と精管 (精子を通す管) および周囲に付着する筋肉をはがします。この処置により精巣が伸びて、陰のう内まで届くようになります。陰のう内まで精巣を降ろすことができることを確認した後、陰のう皮膚に1cm程度の皮膚切開を行い、精巣を陰のう内に位置させます。精巣は周囲組織と糸で固定します。傷は吸収される糸で縫いますので抜糸の必要はありません。手術には1時間程度かかります。
(入院期間) 手術当日に入院していただき、手術の翌日には退院となります (1泊2日)。