■気胸(ききょう)とは■
何の前ぶれもなく、肺の一部が突然破れて、胸の中に漏れた空気がたまり、体外への逃げ場がないため、肺がつぶれてしまう病気です。一言でいうと「肺のパンク」です。原因によって、いくつかの気胸に分類されています。
■気胸の症状■
多くは前ぶれもなく突然発症します。呼吸をしても大きく息が吸いにくい感じがします。激しい運動をすると呼吸ができなくなるなどの呼吸困難、酸素飽和度の低下、頻脈、動悸、咳などがみられます。
発症初期には肩や鎖骨辺りに違和感、胸痛や背中への鈍痛が見られることがありますが、肺の虚脱が完成すると胸痛はむしろ軽減します。痛みは人によって様々で、全く感じない人もいます。
■原因による気胸の分類■
1.原発性自然気胸
① 肺尖部胸膜直下に好発するブレブやブラと呼ばれる嚢胞が破裂することで発症します。
※ ブレブが多く破裂します。 → やブレブ(破れブ)
② 喫煙との関連が指摘されています。
③ 背が高く、痩せ型、20前後の男性に多いのが特徴です。
④ 緊張性気胸:自然気胸や胸部に引き続き起こることがあります。
→ 呼吸困難、頻脈・低血圧、チアノーゼ、気管・心臓の変位。
→ 緊急胸腔ドレナージが必要となります。
⑤ 台風など気圧との関係もある可能性があります。
2.続発性気胸原因となる疾患
続発性気胸とは、種々の基礎疾患に伴う気胸です。原因となる疾患には以下のものがあります。
① 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
② 肺線維症
③ 肺炎
④ 気管支喘息
⑤ 肺癌
⑥ 肺結核
⑦ サルコイドーシス
⑧ HIVに発症するニューモシスチス肺炎
⑨ 月経随伴性気胸
⑩ 肺リンパ脈管筋腫症(LAM)など
3.外傷性気胸
① 交通外傷 → ハンドルなどの鈍的外傷
② 胸部刺創 → 刃物による刺創
③ 胸部よく創 → 鋭利なものが刺さる
④ 転落 → 胸部打撲
⑤ 転倒 → 胸部打撲
⑥ 圧迫 → 車などによる圧迫
4.医原性気胸
医学性気胸とは、医療行為に伴う偶発的なアクシデントで起こります。
① 医学的な検査や処置
→ 中心静脈カテーテル、気管支鏡検査、経皮的肺生検、ペースメーカー挿入時など
② 鍼治療 → 直接針が肺に刺さる場合、遺残によるもの
③ その他
5.月経随伴性気胸(生理に伴っておこる女性特有の気胸)
子宮内膜組織が横隔膜や臓側胸膜に迷入し、生理のたびに、この部位が脱落し、自然気胸を起こすことがあります。右側に好発します。女性ホルモンが関与しているため、外科的治療、ホルモン療法が行われます(※女性の気胸では、生理に関しての情報が重要となります)。
月経随伴性気胸の胸腔内所見(上画像)
気胸となり、胸腔鏡で観察すると横隔膜上に小孔を多数認め、肝臓が透見できました。本症例は病変部位の切除を行い横隔膜を縫合し、術後は婦人科でホルモン療法をおこないました。
■気胸の診断■
1.胸部レントゲン写真
肺のつぶれの程度を確認します。正面像で吸気、呼気の撮影を行ないます。
2.胸部CT
ブラ、ブレブの有無を確認します。ドレーン挿入・留置後、肺の膨張を確認後に撮影します。肺尖部から気管分岐部までは2mmスライスで撮ります(HRCT)。気胸の好発部位は肺尖部(肺の上方)と下葉の上方(S6)です。
■気胸の治療■
1.脱気療法
緊急処置として胸壁から直接胸腔内に注射針を刺し吸引します。簡便ですが、根本的治療ではありません。
2.持続吸引療法
胸腔内にドレーンを留置し、陰圧をかけて吸引する方法と自発呼吸を利用して吸引する方法があります。通常、呼吸器内科、一般内科で行われます。根本的治療ではないので、その後、手術目的で呼吸器外科へ紹介となることがあります。
3.胸腔内癒着療法
癒着剤を胸腔内に注入し肺胸膜と壁側癒着させる方法です。呼吸機能が悪く、全身麻酔がかけられない高リスクの患者さんが対象となります。癒着剤としてピシパニール(ok-432)、ミノマイシン、タルクなどがあります。
4.胸腔鏡下手術
低侵襲的方法。最も良く行われる方法です。3つの小孔で可能であり、再発時の再手術でも可能です。
5.開胸手術
以前は、腋窩開胸で行われていました(最近はほとんどおこなわれません)。
6.治療の流れ
気胸 → 胸部レントゲン写真 → 気胸(+) →
→ ドレナージ(+) → CT → ブラ(ー) → 保存治療?
(→ ドレナージ(ー) → CT → ブラ(+) → 手術)
■中頭病院での気胸に対する胸腔鏡下手術■
- 先ず、患者さんは胸痛で病院を受診し、胸部X線写真で肺がつぶれているのが確認されると、気胸と診断されたら症状によっては入院、安静が必要です。肺のつぶれ具合によって、胸腔ドレーンを挿入する必要があります。
- 保存的治療(安静、脱気、胸腔ドレナージなど)のみで、手術をおこなわなくても軽快しますが、再発率は22.8~54.7%と高率です。
- 胸腔ドレーン留置後、肺の膨らみが改善後に胸部CTを施行し、ブラの存在を確認します。胸部CTでブラの存在が明らかな場合、呼吸器外科での胸腔鏡下ブラ切除を検討します。
- 病変部の切除後は再発予防のための追加治療として、年齢によってブラ切離面に吸収性のシートを貼付し補強後、25歳以下は自己血10mlを使用、25歳以上は人工のりを使用します。
- 自然気胸はほとんどが胸腔鏡で行われるので、順調にいけば術後3日目で退院可能となります。
- 初発気胸でも若年者でブラが明らかに存在する場合は手術の対象になります。
- 術後に患側あるいは反対側に新たなブラが発生する可能性もあります。
呼吸器外科部長 大田守雄