診療科のご案内
肺がんの疑いあるいは肺がんと診断された患者さんは、当院ではほぼ全例に術前の胸部CT-アンギオと言う通常の造影剤を使用した胸部CTのデータを使用して、胸部CTの画像に加えて肺動脈、肺静脈、気管・気管支の3D画像を作成し術前に充分なシミュレーションを行います。胸部CTで腫瘍の存在部位、大きさ、形状など、肺動静脈、気管支の走行関係が確認できます。さらに、3D画像で肺動静脈、気管・気管支を360度回転させることが可能です。特に肺の手術は身体を左右いずれかの横向きの状態で手術することが多く、横からの解剖は非常に重要です。3DーCTが側面解剖の理解に有用です。安全な手術のためには画像のシミュレーションが不可欠です(図1)。
肺がんの進行度(ステージ)は、大まかには腫瘍の大きさ(T)、リンパ節転移(N)、遠隔転移(M)の有無で決めます。腫瘍が大きいほど、リンパ節転移が多いほど進行度は悪くなります。手術前から、脳、肝臓、副腎、骨、肺などに病変が見つかれば遠隔転移あり(M1aあるいはM1b)と診断され、一気に進行度はstageⅣとなり、通常、手術の選択肢は少なくなります。これを肺がんのTNM分類といい最近改訂され、第7版となりました(表1)。
治療前に全身の精密検査でがんの進行度を決めたものを「臨床病期」と言い、術後に病理組織診断で決めたものを「病理病期」と言い、これによって術後の追加治療が必要かどうかが決まります。
表1 肺がんのTNM分類(第7版)
※T1a≦2cm, T1b>2cm〜3cm
T2a>3cm〜5cm, T2b>5cm〜7cm, T3>7cm
小細胞がんは全身への進展傾向、薬剤感受性などから、化学療法が行われることが多く、非小細胞がんは手術が第一に選択されることが多い。ここでは非小細胞がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなど)を対象に説明します。
①開胸手術
文字通りに胸を開いて行う手術で、比較的小さい開胸から、肋骨をはずす開胸まであります。腫瘍の発生部位、大きさ、他臓器との関係、がんの進行度などから開胸が必要かどうかが検討されます。ここでは、肺がんの手術によく用いられる後側方切開の開胸創を示します(図2)。従来は開胸手術が一般的でしたが、近年、光学器械などの発達により胸腔鏡下手術(きょうくうきょうかしゅじゅつ)が行われるようになってきました。
②胸腔鏡下手術
VATS(ヴァッツ)と言われ、当科では2本のポートと1カ所のミニ開胸(約4cm)を使って、ほとんどの手術をモニター画面を見ながら行う手技です(図3)。胸腔鏡下手術は術者にはかなり高度な技術が必要とされるため、ストレスがかかります。その代わり、術後の患者さんの創部痛が開胸手術と比べるとかなり軽減されます。入院期間は従来は約3-4週間ですが、本術式で術後のトラブルがなければ約7-10で退院が可能となりました。
すべての患者さんが胸腔鏡下手術を受けることができるとはかぎりません。比較的早期に発見され、診断された(stageⅠ-Ⅱ)が適応となります(図4-①ー⑧)。但し、手術の目的は安全で確実な治療を行うことが第一であり、決して小さな傷にこだわってはいけません。癒着、不意の出血、リンパ節の固着などの際は迷わず開胸手術へ変更します。
①葉切除:右上葉、右中葉、右下葉、左上葉、左下葉切除術(図5)。肺がんの手術術式
②肺全摘除:右肺全摘除術、左肺全摘除術(図6)。
③区域切除:早期肺がんなどは近年では区域切除が行われるようになってきました(例:右下葉S6区域切除、左舌区区域切除術など)。
④部分切除:低肺機能などの患者さんにやむを得ず、腫瘍の部分のみを切除する方法です。
⑤その他:肺がんの進展状況により肺葉の複数切除が必要なことがあります(例:右中下葉切除など)。
Ⅱ. 隣接臓器合併切除
がんが隣接する臓器へ進展する場合、病巣とともに切除することがあります。(例:右上葉切除および胸壁合併切除、右下葉切除および横隔膜合併切除など)。
Ⅲ. 気管・気管支形成術
肺がんが肺門部(肺の入口)に発生した場合は肺全摘術を必要とすることがあります。肺全摘は正常の肺組織を犠牲にするために術後の肺機能低下が懸念されます。そのため肺機能を温存しつつ、根治性を損なうことのない術式としてこの術式を行うことがあります。
一般的に癒着は胸部においては肺と胸壁、肺と肺、肺と血管などが何らかの原因でくっついている状況を言います。特に問題になるのは肺と胸壁の癒着です。
手術では癒着を解除してから血管などを処理するので、癒着の程度によっては肺からの出血、空気もれなどが起きます。従って手術時間が延びたり、出血量が増加することがあります。その程度には軽いものから重いものまであります。