乳腺科
2012/01/14

いろいろな乳腺疾患

ここでは比較的多い乳房に関する症状や良性の乳腺疾患について、簡単に解説してみました。それぞれの症状、疾患に対しいろいろな学説や未解決な点がありますので、あくまで参考程度としてお読み下さい。ご自分の症状や疾患に関しては、必ず直接主治医からご説明を受け、ご理解下さることをお勧めします。

乳房痛(にゅうぼうつう

女性の70%以上は、一生のうち一度は乳房痛を経験すると言われています。乳房痛は乳がんの症状としてはまれで、基本的にはあまり心配する必要はありません。乳房痛には、実際に乳房が痛みの原因となっている場合と、乳房以外の胸壁(胸の筋肉・骨)が痛みの原因である場合があります。

閉経前の方で生理周期に一致して痛みが出現する場合は、しばしば痛み共に乳腺のはりやしこりを伴うことがあります。これら乳腺の変化は、ホルモンの変動が関連していると考えられています。一般にこのような周期性の乳房痛は、月経1週間前に多く月経が始まると軽減することが多いのですが、閉経後や閉経前でも月経周期と関係のない乳房痛もあります。いずれの乳房痛も乳がんとの関係は少ないので、マンモグラフィやエコー検査で異常所見がなければご安心ください。

乳房痛の対処法としては、まず、身体によくあうブラジャーの着用を心がけましょう。特に痛みが睡眠のさまたげとなっている方は、夜間に柔らかいブラジャーを身に着け、乳房の胸壁からの垂れ下がりを防ぐことも痛みの予防に効果があると言われています。また、お茶やコーヒー・コーラなどのカフェインを含む飲み物を避けると、乳房痛が改善することもあるようです。

日常生活に支障をきたすほど症状が強い場合は、ホルモン剤などの薬物療法を試してみることもあります。しかし、健康な方が乳房痛のためにホルモン剤を服用することは、副作用の観点より一般的にはお勧めできません。内服治療を希望される方は医師とよくご相談ください。

のう胞(のうほう

乳腺組織の一部が袋状になり、中に水がたまった状態をいいます。女性ホルモンのアンバランスが原因と考えられていますが、女性ホルモンの分泌が安定したり、閉経後に女性ホルモンの分泌が低下してくると自然に消えていくものなので、基本的に治療の必要はありません。また、一般にがん化する心配もありません。

超音波検査でほぼ100%の診断がつきますが、小さすぎて他の腫瘍(しゅよう)との区別がつきにくい場合や、しこりが大きくて美容上気になる場合は、穿刺(のう胞の水を外から注射針で抜くこと)して細胞診(細胞の検査)を行うことがあります。

線維腺腫(せんいせんしゅ

20~40歳代の女性に多くみられるしこりで、大きさは2~3cmぐらいが一般的ですが、まれに5cmくらいの大きさになることもあります。

線維腺腫は女性ホルモンの影響で形成されると考えられており、通常の腫瘍(しゅよう)とは異なり、年齢を重ねてホルモンの分泌状態が変わると自然に消えてしまうことも珍しくありません。乳房が変形するほど大きい場合は切除をすることもありますが、基本的には経過観察をすることがほとんどで、手術の必要はありません。また、線維腺腫を放置してもがんに変わることもほとんどありません。

マンモグラフィやエコー等の画像検査に加え、穿刺(外から細い針を刺すこと)して細胞診(細胞の検査)や針生検(組織の検査)を行えば、ほぼ診実に診断することができます。ただし、線維腺腫のごく一部に、後述する葉状腫瘍(ようじょうしゅよう)や乳がんとの鑑別(かんべつ)が難しい場合がありますので、線維腺腫の診断がついた場合でも医師の指示に従い、しばらくは定期的に通院して経過観察をうけてください。

葉状腫瘍(ようじょうしゅよう)

通常、線維腺腫より大きく、悪性化する可能性のある腫瘍です。ただし、画像検査で線維腺腫とよく似ていいて、細胞診(細胞の検査)や針生検(組織検査)でも線維腺腫(せんいせんしゅ)との鑑別(かんべつ)が難しい場合があります。葉状腫瘍が疑われる場合は切除することが必要です。また、切除後でも再発をきたすことがありますので、手術後も定期的検査が必要です。

乳管内乳頭腫(にゅうかんないにゅうとうしゅ)

単発性あるいは多発性で、しこりや乳頭からの分泌物(しばしば血性分泌物)の原因となります。しかし、悪性化の可能性はきわめて低く、真の良性腫瘍というよりも正常の変化が少し強い状態、もしくは正常の変化からの逸脱(いつだつ)と考えられています。針生検で乳頭腫の診断がつけば切除する必要はありませんが、乳頭腫内や周囲の腺管上皮に異型を伴う上皮の過形成(上皮細胞が増加した状態)を認めた場合は、切除生検が必要なこともあります。

乳腺症(にゅうせんしょう)

正常の乳腺は成長や加齢とともに、女性ホルモンの変化に反応して、成熟(もしくは発達)したり退行(もしくは、縮小)したりして常に変化しています。乳腺症というのは、その正常の変化が少し強い状態、もしくは正常の変化からの逸脱(いつだつ)をあらわす言葉で、病名ではなく漠然とした症候名なので理解しにくい概念です。

原因は女性ホルモンのアンバランスで、乳腺がこの影響を受けると、乳房に痛み小さなしこりがたくさんできたりします。しかし、必ずしも病気ではないので、基本的に治療は必要ありません。マンモグラフィや超音波検査などで乳腺症と診断された場合は、どうぞご安心ください。ただし、乳腺症とは病理学的には多彩な状態を含んでおり、その一部には、乳がんとの鑑別(かんべつ)が難しいしこりや石灰化を形成することもあります。そのような場合には、穿刺(外から細い針を刺すこと)して針生検(組織診断)が必要なこともあります。

乳腺症の方に乳がんが発生する確率は、正常の乳腺に発生する確率とほぼ同じと言われていますので、基本的には通常の住民健診や人間ドックでマンモグラフィ検診受けていただければよいでしょう。しかし、乳腺症のごく一部にはがんを発生するリスクが正常よりやや高い病変も含まれます。自覚するようなしこりがある場合は、積極的に専門の病院での診察を受けましょう。

石灰化(せっかいか)

石灰化は、カルシウムが沈着することによって起きる変化で、乳腺の場合は一般的にはマンモグラフィで捉えることが出来ます。乳がんの病巣にも石灰化が出来ることがあるために、マンモグラフィ検診が大切です。しかし、乳腺にできる石灰化がすべて癌と関係があるわけではありません。良性 のしこりや正常な乳腺でも石灰化が見られることがあります。石灰化の形、大きさや分布の状態などから、がんに伴う石灰化かどうかは、ある程度は区別ができるのです。マンモグラフィや超音波で完全に良性の石灰化と判断された場合は、今後も通常のマンモグラフィ検診を受けてください。完全に良性の石灰化と判断できない場合は、6か月から1年後にマンモグラフィを中心とした検査でフォローアップが必要な場合もあります。また、がんによる石灰化が疑われる場合には、小さな針を刺して組織を採取する針生検や、特殊な装置を使ってやや太めの針で組織を採取するマンモトーム生検で調べる必要があります。

乳腺炎(にゅうせんえん)

乳腺炎とは、乳腺に炎症や細菌感染を起こし、赤く腫れたり痛みや熱感を伴う状態です。一般的に18才~50才に多く起こりますが、授乳期におこる授乳期感染症と、授乳と関係のない時期に発症する非授乳性感染症に分けられます。

授乳期に乳汁が乳腺内にたまって起こる場合を「うっ滞性乳腺炎」といい、乳房が腫れて硬くなリ、触ると痛みがあります。この状態から乳頭に細菌が入って感染を起こすと「化膿性乳腺炎」となります。うっ滞性乳腺炎よりも症状はさらに強く、乳房が赤く腫れ上がって激しく痛み、高熱が出ます。

うっ滞性乳腺炎では、乳房マッーサージなどを行って溜まった乳汁を出すことにより大抵は軽快します。化膿性乳腺炎は抗生物質や消炎剤で治療します。膿がひどくたまっている場合には、患部の皮膚を切開して膿を出す場合もあります。

授乳経験がなくても、乳輪下膿瘍といって、乳頭から細菌が入って感染を起こし、乳輪の下に膿のかたまりができることがあります。乳輪下膿瘍も患部の皮膚を切開して膿を出しますが、何度もくり返す場合は根本的な手術が必要になることもあります。喫煙との関与が強く疑われていますので、喫煙している方はぜひ禁煙することをお勧めします。

また、肉芽腫性乳腺炎(にくげしゅせいにゅうせんえん)といった、難治性の乳腺炎もあります。はっきりした原因はよく分かっていませんが、自己免疫疾患の関与が疑われていています。難治で再発をくり返すことも多く、根気よく治療を続けることが大切です。