■リンパ節転移とはどのような意味があるのでしょうか?■
肺のリンパ節には①から⑭の番号がついています(図1)。肺門(肺の中心部)および縦隔(臓器と臓器の隙間)にはリンパ節が存在します(図2・3)。画像診断で胸部CT上、リンパ節が1cm以上に腫大したり、PET-CTで陽性と診断され場合には、リンパ節転移が疑われます。それと腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、他臓器(脳、肝、副腎など)への転移の有無で最終的に肺がんの診断が決定します。身体のどの部位のリンパ節転移があるかどうかは、肺がんの存在する肺切除を行い、リンパ節の摘出を行い、病理組織診断で決定されます。リンパ節への転移がなければ、手術のみで治療終了となることがあり、リンパ節に転移があれば抗がん剤点滴、放射線治療などを術後に追加することがあります。
■肺がんの治療法は手術以外にはどんな方法がありますか?■
抗がん剤、放射線治療などがあります。
① 抗がん剤治療
小細胞肺がんと非小細胞肺がんでは抗がん剤の種類が異なります。抗がん剤は 点滴静注する場合は2種類を組み合わせて使う方法などがあり、どの種類を使うかは、患者さんの腎機能、合併疾患、体力、抗がん剤の特性、術後の病理病期などを参考に主治医と相談して決めます。他のがんと同様、肺がんも遺伝子との関連性があるため、治療前に遺伝子検査を行い、適応があれば、分子標的治療薬を使用することがあります。
② 放射線治療
術前に抗がん剤と併用する方法や、術後にリンパ節を切除した部位に照射する方法、 骨転移部位への照射で痛みを和らげる方法などがあり有用です。
③ ラジオ波治療(RFA):
手術以外の治療として、当院では放射線科で高度先進医療として行われ良好な 成績を納めています。胸部CTガイド下に行われる低侵襲な治療法です。
④ ステント治療
肺がんにより気管内浸潤、外側からの圧排による気管・気管支閉塞は無気肺、閉塞性 肺炎を引き起こし、重篤な息切れや窒息に至るほどの呼吸困難をもたらすことがあります。このような腫瘍による狭窄、閉塞を防ぐ器具として金属ステントやシリコンチューブステントなどがあります。
⑤ レーザー治療
⑥ 光線力学療法(PDT)
⑦ 免疫療法
⑧ その他
■肺がんの腫瘍マーカーにはどのようなものがあるのでしょうか?■
腫瘍マーカーは、通常、血液(血清)検査で行います。悪性腫瘍のスクリーニング、鑑別診断、予後、臨床経過チェックに使用されます。肺がんは非小細胞がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)および小細胞がんの4つの組織型が大半を占めます。非小細胞がんは腺がんではCEA、扁平上皮がんではシフラ(CYFRA)などを主に測定します。小細胞がんではProGRPの測定を主に行います(表1)。それぞれの腫瘍マーカーには測定キットにより正常値があり、それを越えると何らかの異常を疑います。しかし、CEAは他臓器(結腸がん、胃がんなど)でも高値を示すことがあり、画像診断などもあわせて全身の評価・診断を行う必要があります。腫瘍マーカーは術前に測定することによってある程度、肺がんの組織型が分かります。術後に高い数値を示すと再発などを疑います。
■術後の経過および退院後はどのような形で病院へ通院するのでしょうか?■
退院後は外科外来へ受診し、胸部X線写真の撮影および傷のチェックと胸腔鏡ドレーン抜去部の抜糸を行います。さらに数週後、外来で術後の病理組織診断結果の説明を行います。
その後は呼吸器内科へ戻り、約2~3カ月毎の通院を行いますが、術後の抗がん剤による治療が必要な際は、入院加療が必要となります、年に1~2回は胸部CTで再発、その他の変化の有無を調べます。 従って、術後は肺がんの再発予防のために数年は、外来通院で経過観察する必要があります。
■肺がんに対する抗がん剤治療にはどのような種類があるのでしょうか?■
肺がんは大きく二つの種類(非小細胞がん・小細胞がん)に分けられます。「非小細胞がん」か「小細胞がん」では治療法が異なります。手術なしで抗がん剤のみの治療を行う場合と手術の後に行う場合があります。
非小細胞がんの化学療法
シスプラチンやカルボプラチンなどのプラチナ製剤とその他の抗がん剤と組み合わせて行います。2剤併用療法が標準治療です。腎機能低下、年齢などによりカルボプラチンを選択することがあります。プラチナ製剤が使用できない患者ではそれ以外の抗がん剤の単剤あるいは2剤を組み合わせた治療を行います。
小細胞がんの化学療法
小細胞がんは比較的進行が速いがんであるが、化学療法に対する感受性が高い(=効果が高い)。治療の中心はシスプラチンやカルボプラチンなどプラチナ製剤で、これに塩酸イリノテカン(CPT-11®)、エトボシド(VP-16®)を組み合わせた2剤併用などが行われます。
分子標的治療Ⅰ
① 非小細胞癌に対してがん細胞だけの攻撃をねらって開発された分子標的薬という薬があります。分子
標的治療薬としてゲフィチニブ(イレッサ®)、エルロチニブ(タルセバ®)が使用されています。
② がん細胞の表面には、がんの増殖や転移に関与するEGFR(上皮増殖因子受容体)があり、分子標的
治療薬はEGFRを標的にします。
③ ゲフィチニブ(イレッサ®)、エルロチニブ(タルセバ®)の治療に先立って患者さんのがんの部分
から組織、細胞、胸水などの採取を行い、EGFRの遺伝子変異の有無を調べます。これまでの研究で
EGFRの遺伝子変異の陽性が確認された場合に効果がでることが分かっています。
分子標的治療Ⅱ
① ベバシズバム(アバスチン®)は上記のゲフィチニブ(イレッサ®)、エルロチニブ(タルセバ®)
とは 作用機序がことなり、がん細胞に酸素や栄養を取り込む新生血管の生成を抑えて、がん細胞を
死滅させます。
★抗がん剤の副作用には軽微なものから重いものまであり、その発現の程度によって、投与量を減らし たり、一時中止することがあります。
■喫煙者と非喫煙者の肺は見た目もことなるのでしょうか?■
やはり大きく違います。非喫煙者の肺は薄いピンク色でみずみずしく、きれいなものです.。手術も喫煙者に比べ行いやすいことは事実です。一方、喫煙者(重度)の肺は、決してきれいとは言えません(図6・7)。肺がんの予防はまず、永久禁煙です。一時的な禁煙では全く意味がありません。
■呼吸器外科シリーズを終えるにあたり■
昨年から約1年間にわたり、呼吸器外科についての解説を書かせていただきました。できるだけ、わかりやすく、文字を少な目に図を多くいれることを心がけたつもりです。一方的な解説ではなく、質問形式に答える形にしました。ご参考になれば幸いです。
その他の詳細、わからないことがありましたら、主治医、呼吸器専門医にご相談下さい。
呼吸器外科部長 大田守雄